The Burton Blog

Rise: ケリー・クラークの20年

「20年にわたるライダー生活のなかで、約200回コンテストに出場し、137回表彰台に立ち、78回優勝することができた。パイプを滑った回数は……、数えることなんてできないわ。でも、ついにそのときがやってきた感じよ。そろそろ後進に道を譲るべきだなって」
– ケリー・クラーク

20年もの間、Burtonライダーとして第一線で活躍してきたケリー・クラーク。スノーボードの世界広しと言えども、彼女ほど多くの優勝を経験したライダーは他にいません。そんな彼女も、ついにコンテストシーンから身を引くことを決めました。今も昔も謙虚な姿勢は変わらず、すでに視線は未来へと向いています。

「今の若い子たちの方が、もっともっとハーフパイプを進化させることができるはず。かつての私以上にね。私はコンテストシーンから身を引くけど、これからもウーメンズスノーボードは安泰よ」とケリーは言う。

ここで、これまで彼女が成し遂げてきたことを少しだけ振り返ってみましょう。3つのオリンピックメダルや8度のBurton US Open優勝といった輝かしい成績をはじめ、非営利団体“Kelly Clark Foundation”の設立、書籍「Inspired」の執筆、Burton共同CEOのドナ・カーペンターと一緒に開発したRiseなど、彼女の功績を挙げ始めたらキリがありません。

心身共にスノーボードへ捧げてきた彼女にとって、第一線を退くことは非常に大きな決断です。やはり、彼女自身の言葉で伝えるべきでしょう。

本当に20年も経ったの?これまでのスノーボード人生で、特に記憶に残っていることは何?

今じゃ考えられないことかもしれないけど、私がスノーボードを始めた頃って、女性はチャンスが少なかったのよ。でも、私はプロスノーボーダーになりたかった。当時はコンテストで勝つしか道がなかったから、「やるしかない。プレッシャーがかかる場面でもちゃんと滑らないと。それしか方法はないんだから!」って、自分に言い聞かせたわ。

1998/1999シーズンからUSナショナルチームに合流したんだけど、最初はBチームで、遠征費の大半が自己負担だった。チームに合流してから最初のコンテストは、バーモント州のオケモで開催されたGrand Prixだったの。そこで、私もグレッチェン・ブレイラーも表彰台に上がることができたのよ。直後にAチームへ昇格できて、それからは遠征費も全額サポートしてもらえるようになったわ。当時は遠征費を負担することができなかったから、とても大きなモーメントだったわ。「これは夢なの?現実なの?」ってね。

もちろん、キャリアのハイライトとしては2002年も外せないわね。大学へ行くか迷っていた時期だったの。もし、あのシーズンに良い結果を出せなければ、普通に大学へ行くことになっていたのよ。やるかやられるかみたいな感じ。一発で仕留められなければ、ロードアイランド大学が待っていたわけ。

そのシーズン、オリンピックの選考を兼ねたコンテストで、まずは7位と9位だった。クリスマス付近に半月板をやっちゃって、残り3回のコンテストで何とかオリンピック代表に選ばれれば……って状況よ。マウントバチェラーでのコンテストからマックツイストがメイクできるようになって、その後2回のコンテストでも決めることができて、結果としてUSナショナルチームに選ばれたの。それからX Gamesでの結果を受けて、オリンピックへの切符を手にしたのよ。そのまま勢いに乗って、Burton US Openでも優勝することできたわ。

あのシーズンはクレイジーだったのを覚えてる。結局オリンピックで金メダルを取ることができて、観客席にいる両親にこう言ったわ。「これで進学はなしよね?」って。

進学にならなくて良かったね(笑)。もっと最近で思い出深かったのは?

ビデオの撮影で行ったバルドフェイスロッジも最高だったわ。アン・モリンやシャノン・ダン・ダウニングは、私のスノーボードのルーツよ。私にとって2人は模範だったし、負けまいと努力したわ。何より可能性を示してくれた。アンは誰よりも早くハーフパイプでフロントサイド900をやったし、誰よりも高く飛んでいた。2人は扉を開いてくれたの。彼女たちとバルドフェイスにいると、何だか一周して元の場所に戻ってきた感覚を覚えたわ。

ところで、今後Burtonではどんなことをやるの?何を目指しているの?

業界のリーダーとして、Burtonには大きな役割がある。そう、サステナビリティよ。ずっとライダーをやっていて、プロダクトの製作には少なからず関わってきたわ。今、プロダクトの開発ミーティングではサステナビリティが話題の中心よ。私たちの核となることだし、できる限り広い範囲でサステナビリティを実行していかなくちゃいけないの。

これまで、私のスノーボードはコンテストが中心だった。日々の思考のなかで、コンテストが占める割合はすごいことになっていたわ。その代償というか、いろんなことを諦めなければならなかった。今ではいろんなことを吸収しながら、新しいボードをデザインしたり、新しいプロダクトをテストしたり、様々なことに没頭できる。何かに没頭できる時間や余裕がある自分を楽しんでいるわ。

Kelly Clark dropping a cliff in the backcountry.
「明日はコンテストだ……」なんて気にすることもなく、思い切りライディングを楽しむケリー
Kelly Clark with her new board, the Rise.
新たなスノーボードライフは出だし好調
Kellly Clark, Chloe Kim, Anne Molin, and Shannon Dunn in the backcountry.
ブリティッシュコロンビアのバックカントリーで再会したクロエ・キム、アン・モリン・コングスガード・ノックス、ケリー・クラーク、シャノン・ダン・ダウニング

ドナと作ったボード、Riseについて聞かせてくれる?

自身のコレクション、Mine77をリリースしたジェイクがドナに課題を与えたらしいのよ。「最高にサステナブルなボードを作って」って。それで、「ボードをデザインしなくちゃいけなくなったわ!一緒にやりましょうよ!」って、ドナから電話がかかってきたの。

歴代Burtonプロダクトのなかでも、トップレベルにサステナブルなボードに仕上がったわ。2020シーズンモデルにおける、サステナビリティのスタンダードを先取りしているの。パウダーボードで、Riseって名前を付けたわ。今回は50本のみの生産で、Craig’sプロトタイプ工場で作ったの。あそこは使用エネルギーに関してもサステナブル重視だから、今回、CO2の排出量はほぼゼロだったって聞いてる。テクノロジーや進歩的な考え方が私たちの価値観と融合できるってクールなことよね。個人レベルでも、ブランドレベルでも、私たちのやること全てで実践していきたいわ。

バルドフェイスでの3日間はRiseにしか乗らなかったんだけど、違うボードにスイッチしたいと思うことはなかったわ。「これで何でもできるじゃん!」って。確か、ドナはこう言ったわ。「もう他のボードには乗らないわ。絶対離さないから!」

コンテストシーンから離れて、これからは何をしたい?

コンテストは消耗が激しいの。今は時間に余裕があるから、いろいろなことにチャンレンジして、これからどんな形でスノーボードで得た経験を活かせるか試したいわ。

スノーボードに関して言えば、いつだって新しいことを覚えたいし、進歩し続けたい。それが私のDNAであり、とても大切なことなの。何かに挑戦して、結果として前進できると報われるのよ。今までとは違う形のスノーボードだって同じことよ。パウダーやバックカントリーとかね。そっち側のスノーボードで成長していきたいわ。特に撮影をがんばるってわけではないけど、ただもっと上手くなるために努力は続ける。それが私の生き方だから。

それ以外では、近い将来また本を出したいわ。執筆とか講演に興味があるから。ライディングはもちろんだけど、Burtonでサステナビリティやプロダクトにも携わっていきたい。

かなり刺激的な日々になりそうだね。

そうね、暇ではないわね。忙しくいるためにやることはいくらでもあるわ。すごく楽しい!1人の人間として、アスリートとして、コンテストシーンを離れたスノーボーダーとして、新たな冒険と成長が待っているの。オリンピックのために、向こう4年のスケジュールを組む必要もないしね。これまでの人生に比べ、自由な時間と創造力を有効活用していきたい。それって、スノーボード本来の形よね。だからこそ私たちはスノーボードが大好きなんだし、可能性は無限大よ。ネクストチャプターが楽しみで仕方ないわ。


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